こんばんは,演出原画の田野です.
僕は原画担当なのですが,実は美術もやっています. 今回は美術編として,スタジオゴルゴンゾーラ美術の仕事をご紹介します.
まずは美術の大まかな仕事内容をご説明しましょう.
美術にはみっつの仕事があるよ!
まずは「背景美術」です. これはレイアウトから背景をかき起こす仕事です.大変です.
次に「色設計」です. これはキャラクターの基本配色を決める仕事です.そんなに大変じゃ無いです. ここで決められた設定は「N色設定」と呼ばれて,いろんなところの指定に使われます.
最後に「美術調整」です. かき起こした背景や,試験撮影の画像をみて全体の色味を整えていきます. 大変です.
それでは一つずつご紹介していきます.
今回はこのカット(上)が最終映像(下)になるまでをご紹介します. (原画編でもご説明したカットですね!)
動作欄に「後ろにあるのはドラフト」と注意書きがはいっています. これは「ドラフトチャンバー」のことでしょう. 頭に止めておきます.
原画編ではレイアウトというものを描きましたが, これがそのまま背景の下書きになります.
これです.
レイアウトと呼ばれるこれは, 画面の中でのセルの位置や,背景の構成,撮影処理の指示(打ち合わせ)に使われます. (原画編も併せてご参照ください)
重要なのは「背景の構成」と「撮影処理の指示」です. 先ほどご紹介しました絵コンテの画面構成欄は, だいたいの構成のみ書き込まれていて,詳細が分かりづらくなっています. なのでレイアウトを確認して,詳しい背景の構成を把握します.
ト書きをみますと, 左側のものは「壁」と「ドラフトチャンバー」で間違いないようです. 右側にあるのは「実験机」らしいです.
まずはレイアウトを開きます.
美術の仕事はPhotoshopを使っています.
ブラシなど特にカスタマイズをしていません. (カスタマイズしようと考えたことはありますが,難しすぎてやめました)
この記事のために途中のファイルをたくさん用意しておきました. ステップバイステップでいきたいと思います. 一回やってみたかったのです.
まずは大きめのブラシで色を置いていきます.
「下塗り」です. この段階でどのような配色にするか,どのような明るさにするかを決めます. あくまでも下塗りなので,本編素材にはこの色は出てきませんが, ある程度固めるつもりで描きます.
細部を書き込んでから色を調整すると, バランスを整えることが難しく,失敗してしまう可能性があがります.
セルの裏の部分ですが,動きを考えて背景を余分に作っておきます. 無駄な部分まで書き込むのは意味ないですからね!!
線画を消して,全体のバランスをみてみます.
線画が消えると画面が弱くなったような印象があって怖いですが, ここは我慢して塗り続けます. 終わらないとスケジュールが詰まっていますので,なんとしても,終わらせないと. 終わらせないと.
左側のドラフトを少し書き込んでみました.
線画が何も無い状態では描きにくいので,薄く出しておきます. ただ実際の画面にはこの線は出てきませんので,それだけは注意します.
描くときには,コツがあります. (本で読みました!本で!)
別のカットの背景の一部です.
光が当たる側の境界線は明るい色で. 光が当たらない側の境界線は暗い色で書き込みます.
できるだけ暗い色を使うと,なんだかそれっぽくなります. (でも怖くて明るい色の背景を作ってしまうので困ります)
左側をなんとか書き込みました.
すこし色が明るすぎる気もしますが,このままいきます. 書き終わらないと,調整も出来ませんので.
小さなシールまで書き込みます.
ただ,この後の撮影処理(ぼかし)で全て消えます. でもそこに「文字がある」ことが大事なのです.そう信じています.
そのまま右側も書き始めました.右側下にタブレットを置きます.
画像検索などで「実験机」を検索して, 詳細を描き込んでいきます.タブレットとか,リトマス試験紙の箱とか, くじけそうになりますが,がんばります.
諦めそうになったときは,書き終わった部分を見て精神状態を落ち着かせます. 自分自身との闘いなのです.
全て塗り終わりました.
もっとステップバイステップでご説明したかったのですが, 保存していた画像の数がそこまでありませんでした. 背景の書き方は,本や参考サイトをご覧になるのが一番良いと思います.
一応書き終わりですが, びびって明るい色で塗りましたので,画面が明るすぎます. これでは「明るくする撮影処理」が使えなくなりますので,すこし明度を下げておきます.
実際には仮撮影(試験的に未調整の背景とキャラクターを撮影で合成)で, 画面の色味の見本が出てきますので,それで明度の調整を打ち合わせます.
明度調整後の背景です.これをPNGファイルに書き出してカットに登録します.
ここまでが美術の第一の柱「背景美術」です. 最初から6時間ほどかかっています.相当大変ですね.
ここで「旧作(森の奥停留場)わかば設定」で仮塗りしてもらったセルを置いてみます.
この時点で色設定がありませんので, こういう場合は前作の設定から色をもってきます.
確認して初めて分かる,このまとまりのなさ.
まとまりとはなんでしょうか…?
さておき,このままでは画面として成り立ちませんので, 今度はセルの配色を調整していきます.
これが二本目の柱「色設計」です. (この顔,何かに似ている気がします…)
色調整前(上)と色調整後(下)です.
肌に赤みをさし,それを基準にして各色を整えました. ついでに主線色も肌色に近づけるように変更します.
このあとの撮影では「DF(ディフュージョンフィルタ)」という処理をセルにかけます. これは明るい色だけを「飛ばす」効果処理です. この効果をかけることを前提に「明るい色」と「暗い色」のメリハリをつけていきます.
普通のイラストとは違って,これで完成品という訳では無く, この後の撮影処理をイメージして色をおいていきます.
この色設計を元に,仕上げで「設定化」をします.
こうやって出来あがった設定に「A01-P000」といった番号が振られ, 色指定に使われるようになります. 基本的にシーンごとに色設定を変えていきます.
前作の色設定と少し比べてみましょう.
前作と比べますと,赤みが加わりメリハリのきいた色設定になっていると思います.
これを撮影して,最終確認用の画像を作ります. ここでの撮影処理は本編撮影と同様の効果をかける,ホンモノのものです. (今までの工程ではただ素材を置いただけの仮撮影もありました)
なんということでしょう.
以上の調整をして撮影を通しますと,このような映像になります. これは最終的な映像ですが, ドラフト映像から,フィルタやキーの調整を撮影と一緒になっておこないます.
これは「美術調整」という工程で, 撮影画像をもとにして,セル色の一時変更や背景色の変更も行うことがあります.
以上が美術のお仕事になります.
これをレイアウト/原画の合間を縫って進めるものですから,すごく疲れます. ただ,完成映像を見ることの出来る工程なので,やりがいはあります.
ただ疲れるので,背景描きたくないです. 背景描いてくれる人,いつでもウェルカム.
次回はいよいよ「撮影編」です. 完成映像が作られる様をどうぞお楽しみに!
<特集 アニメを作る!> 第1回 原画編 http://blog.gorgonezola.com/2014/11/make-animation-1.html 第2回 取込み/原撮編 http://blog.gorgonezola.com/2014/11/make-animation-2.html 第3回 動画編 http://blog.gorgonezola.com/2014/11/make-animation-3.html 第4回 動画検査編 http://blog.gorgonezola.com/2014/12/make-animation-4.html 第5回 スキャン・仕上げ編(1/2) http://blog.gorgonezola.com/2014/12/make-animation-5.html 第6回 スキャン・仕上げ編(2/2) http://blog.gorgonezola.com/2014/12/make-animation-6.html