こんばんは,動画の田野です. 先日,仕上げ編と撮影編が同時に更新されましたね. その中で,ちょくちょく美術と動画修正について言及されていました.それら二つの工程に重要なパートを本日はご説明したいと思います.
前回の特集「アニメを作る!」でも同様の内容がありますので,そちらもご覧いただくと,2Dと3Dそれぞれの制作工程で変化した部分がわかりやすいかと思います. 「アニメを作る!美術編(過去記事)」「アニメを作る!動画検査編(過去記事)」
<特集: 制作ライン試験!> (6月20日)概要・予告 (6月21日)ベースリグ/カスタムボーン編 (6月22日)ポージング/画面作り編 (6月24日)画面効果・撮影編 (6月24日)仕上げ編 (6月25日)美術・作画修正編
絵コンテと説明していますが,これは打ち合わせ用のラフコンテです. 美術には3つの役割があると,過去の特集でご説明しました.それは次の3つです.
- 背景美術(画面の背景となる素材を作る)
- 色設計(キャラクターの配色を設定する)
- 美術調整(カットごとに全体の色味を調整する)
この一つ一つを順を追って見ていくことにしましょう. まずは背景美術についてです.
この下絵は「大まかな配色」と「画面の構成」の2つを決めるものです. 2D制作の時は「レイアウト」という作業があり,その段階で画面の構成が決まっていました.しかし,今回の制作工程ではレイアウトでの「画面構成を決める」という作業が,動画と美術に分離してしまっているわけです.
実際にはこの前段階で,セルの仮出し画像があります. それを参考に画面構成を考えます.
なので絵コンテや脚本,打ち合わせ時の情報などから,石橋と川縁の雑木林をイメージしました.少し雑な印象ですが,配色とだいたい配置が分かれば,これで十分です.
続けて前景部分である橋から書き込んでいくことにします. 前作までの背景美術では,細かな部分まで描き込む方針でした.ですが,今作からは撮影処理との関係で,事情が異なります. この部分を絡めてご説明することにしましょう.
石の橋にしたかったので,積み石をかきました. 余談ですが,こういった少しずつ色が違う集合を描くのって,異様に疲れませんか? 描き始める前から分かっていましたが,色を少しずつ変えなければならない手間や,いつまで経っても同じ形という苦痛は,なんともしんどかったです.
さすがにこれだけでは味気ないので,少し影を入れましょうか.
前作までだと,明らかに下書きレベルですが,これで良いのです. 今までの作品とは違って,美術素材には強力なレンズ効果がかかることになっています.そのため,あまり書き込んでも,意味が無いわけです.
本当に大丈夫なのか,試しに確認してみます.
前作(あいかの手帳C87)では,もっと背景を書き込んで,それを前提に少なめのレンズ効果をかけていました.それはそれで良い画面だったと思います. しかし,今作では予想の尺が50分を超えていますので,あのような美術素材を出すことは難しいことです.
そのため,撮影処理で画面ぼかしを強力にかけることで,なんとか美術の穴埋めをしようとしています.まだ試作段階ですが,来週には完成版に近いものが出来ると思います.
少し脇道にそれてしまいました,この調子で橋の向こうも書き込んでいきます.
橋桁の石組みで挫折しそうになりましたが,この程度なら1時間もあれば済んでしまいます.これなら一日に何枚か美術をあげることが出来そうですね.
Photoshop上でぼかし処理をしているので,最終的なコンポジットとはまた違いますが,確認には十分です. 良い感じですね.ではこれを書き出して,撮影へ渡しておくことにしましょう.
コンポジットがやりやすいように,レイヤを統合しておきます. 下絵用のレイヤや,不必要な効果はあらかじめ削除しておくと,スムーズです.
最終素材はこのようになりました.効果なしですと思っているより雑ですね.
しかし美術はこれで終わりではありません. 続けて,セルの色を調整していきましょう.
キャラクターは,あらかじめN色と呼んでいる「基本色」で着色されています.
このN色は「日中」「明るい室内」を想定して作られている色で,シーンにもよりますが,たいていの場合調整が必要です. ですので,美術素材と合わせてみて,画面を仮組みしながら色を考えていきます.
美術素材がなくとも色調整は可能ですが,実際の画面を確認しつつ色を確認できるのは確実で簡単です.
基本的には,色温度の変更などにとどまりますが,カットによっては肌色だけを変えたりします.本当なら絵コンテや美術ボードから雰囲気が分かるのですが,今回はそのような設定がないため,画面の印象から暗くしてみました.
仕上げ編でも触れられていましたが,この美術工程は動画工程と平行して進みますので,この段階で完成したセルがあるとは限りません.ですので,仮出し素材で調整を進めます.
このように美術指示で存在しない色は,仕上げで新規作成することになります. 理想的には動画や仕上げが完了した後に,色を調整するのですが,なかなかそうもいきませんね.困ったものです.
ここまでが,今作での美術の仕事になります.
- 背景素材を作成し,撮影へ渡す
- セル素材の色を調整し,仕上げへ渡す
この二つの工程が,実質的な画面の印象を決めますから,とても重要な仕事です. また,画面の様子を作っていきますので,割と楽しい工程でもあります.
ここまでは美術についてお話ししてきましたが,ここからは,動画修正について軽くお話ししていこうと思います.
赤い線は「ホホぼかし」の指示を示していて,ここではモデルから出力されないホホぼかしの領域を仕上げに指定しています.2D工程だと,動画で処理していましたが,今作では完全に仕上げ処理になりました.
緑の線は「主線修正」を示しています.上の画像をよく見ますと,不必要な部分に主線が出力されていたり,髪の先が丸まっていたりしていることが分かります. これも仕上げで修正してもらいます. (もちろん動画でもモデルを修正しますが,追いつかない場合がほとんどです)
青い線は「影修正」です.注意深くライトを設定しても,思った場所に影が出ない事や,不必要に影がでてしまうことがあります. これも仕上げで調整してもらいますので,影の塗り足しや消去についても指定します.
修正後のセルと修正前のセルを比べてみると,よりわかりやすいかもしれません.
眼の周りや,首筋のあたりが大きく異なることが分かります. 今作の制作工程では,3Dモデルやセットアップの不備を,2D制作でのわずかなノウハウでもって補おうとしています.修正後のセルを見ると,手描きのセルですと言われても気がつかないかもしれませんね.
以上が現在試験中である新しい制作工程のご説明でした. 全6回の唐突な特集でしたが,おおまかな制作の様子はお伝えできたのではないかと思います.
手描きだった前作までとは異なり,今作はセルルック3Dを主軸に制作を進めていきます.3Dに取り組み始めてもう5ヶ月近くになります.ようやく,本編の制作に入ることが出来そうです.
今後もこのブログを通じて,身近な制作作業をお伝えできればと思っています. 今までのゴルゴンゾーラ作品のような雰囲気を,今作でも出すことが出来れば良いなと思います.
明日からは通常の更新に戻ります. もう疲れるので,特集はやりたくないですね.